楽しみにしていた「石阪春生と新制作の神戸」を観に、神戸市立小磯記念美術館へ。初めて訪れましたが、小磯良平のアトリエがそのまま敷地内に移築されており、素敵でびっくり。とてもセンスの良い人だったんですね。良き時代の日本の空気感がそのまま室内に残っていて、かつてここで過ごしたであろう画家とモデルの会話、コーヒーの香りまでもが今なお、たゆたっていそうな空間でした。 窓枠やドアは淡いモスグリーンに塗られており、これは小磯がもっとも好んだ色だそう。枚方にある「星ヶ丘洋裁学校」もそうですが、私も戦前〜戦後の建築によく使われているこの色が大好きです。 絵の具、スケッチブック、パステルなどの画材だけでなく、絵のモチーフにしたのであろう楽器、モデル用の椅子、膝掛け用のブランケット、蔵書といった部屋のムードをかたちづくっている細部にも目が釘付けに。まずは第一展示室で小磯良平のバレリーナや婦人像といった作品を鑑賞してから、いよいよ石阪春生メインの展示室へ。 石阪春生先生のことは、2015年の記事(Click!)でも書いたことがありましたが、亡くなられていたことは最近知りました。神戸ポートピアホテルで開催されていた個展におじゃました際にはご本人もいらして、痩身に黒い服をまとい、絵のイメージを裏切らない浮世離れしたムードを漂わせておられた姿を思い出します。 個展のときとは違って圧倒されるような大作が多く、わざわざ訪れた甲斐がありました(↓展示室は当然のことながら撮影できないので、フライヤーを貼っておきます)。 「憂鬱そのもののような、暗い少女像にひかれる」という東郷青児や竹久夢二にも通じる自分の好みを改めて再確認した次第。レースで縁取られたドレス姿の少女と、古びた日傘やドライフラワー、壊れたオルガン、動物の頭蓋骨といった詩的なモチーフを組み合わせ、緻密に描き込まれた作品がたくさん。彼の絵は、私にとっての神戸のイメージそのものでもあります。 最後の展示室には、柩(ひつぎ)に入った女性など死の匂いがするダークで退廃的な作品もあり、師匠である小磯良平のような大衆性はないものの、やっぱり私はこっちだなと思いました。詩人の竹中郁が叔父だった、ということもこの展覧会で初めて知ったこと。自作についての言葉も印象的で、 「もの思う、つかれている、しらけている、といったマイナスのエネルギーが働いているとき、その女性にはあやしさがありますね。それでいて毅然としたもの、女の性をぎりぎりで生きているという感じもある」 「女が常にテーマなんですが、ものにも興味を持っていて、ものともののぶつかりあいにポエム(詩)が生まれると考えています。大衆的にわかりやすい、ということも大切だが危険でもある。そのぎりぎりのところに身をおきたい」 なかでも印象に残ったのはこのふたつで、芸術性と大衆性のあいだで自分なりの表現を模索したところも、青児や夢二に通じるものがあると感じました。 その後、おばあさん四姉妹が切り盛りする、昭和から時が止まったようなお店というので有名な、「喫茶 思いつき」へ。訪れた日は写真の紀久恵さんだけでしたが、世間話の合間に出演されたテレビ番組を見せていただくなど、喫茶店というより、おうちにおじゃましてお茶しているような気持ちに。ディスプレイされていた、糸巻きやハサミなどの手芸道具があしらわれた、オリジナルのカップ&ソーサーもかわいい! 決して広いとはいえない店内に、お客さんが手づくりしたのであろう愛らしい刺しゅう作品などが、ところ狭しと飾ってあったのが印象的でした。 最後は湊川へ。駅前にあった「大吉屋」というお店の人工衛星饅頭、ぜひとも買いたかったのですが、閉まっていて残念。創業はなんと1957年で、人類初の無人人工衛星「スプートニク1号」にあやかって名付けられたそう。 「モスクワの味 パルナス」などもそうですが、昭和の頃はロシア発のあれこれが、今より生活に密着したところにあったように思います(昔ながらの洋菓子店に今もある「ロシアケーキ」なども……) 「ハートフルみなとがわ」という市場内にあった、「きくや手芸店」。おかんアート作品がいっぱいで、店先に椅子も置いてあり、手芸好きなご婦人たちの憩いの場となっているようす。大正7年設立の公設市場が前身で、時代の流れとともに空き店舗が目立つようにはなっているようですが、なんともいえない、懐かしい空気感に胸がしめつけられました。兵庫県らしく、おかんアートの代表格である「ニットの服を着たキューピー」も阪神タイガース仕様です。 日が暮れはじめ、そろそろ帰ろうと新開地方面へ歩いていたところ見つけた「茶房 小町」。「たるみ燐寸博物館」(Click!)の小野さんがここのマッチを全種類持っておられ、舞妓さんの意匠がかわいくて記憶に残っていたお店です。喫茶としての営業をしておられるのかどうかは不明でしたが、西日に照らされ、色あせた食品サンプルが在りし日々を物語っていました。
by interlineaire
| 2023-06-14 20:17
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