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路面電車、戦争、パン、喫茶店の広島
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20代に前職で訪れて以来、もう何十年ぶり?という広島へ取材で行く機会がありました。早朝からの取材だったため、前日から広島入りし、少しだけですが街歩きも。

画像は某氏からこんなお店があるよと教えてもらい、駆け込みで入店した、「中村屋」という喫茶店。フランスの田舎町にある教会のような、小劇場のような……思った以上にすばらしい空間でした。体調があまり万全でなく体力温存のため、行くべきか迷ったのですが、感動のあまり疲れも吹き飛んだ次第。

大阪芸大出身という二代目オーナーご夫婦が気さくにいろいろ話してくださったことも、広島とのご縁ができたようで嬉しかった。奥の方にピアノがあり、ジャズ好きのマスターが、時折、ここで演奏会をされたりしているそう。


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なかでも目が釘付けになったのは、シャンデリアの奥にある、劇場のバルコニー席のような意匠(シャンデリアは、大阪から船で運んできたものとか)。奥様のおじいさんにあたる方が大工の棟梁だったため、ヨーロッパの建築写真集を見たり、その頃、旅した韓国で見た西洋建築を参考にしつつ、若い夫婦のために内装を手がけたのだそう。娘への愛情が、このように凝りに凝った唯一無二の空間を生み出したのですね……。

創業はなんと原爆投下の翌年だそうで、何度か火事を出したりして修復されたそうですが、基本的には変えていないとのこと。何もない焼け野原と化した戦後から、広島という街のすべてを見てきたお店だったのでした。




この、ワインやカルヴァドスが似合いそうな静謐でドラマティックな空間にて、空腹だったため、コロッケ定食をいただきました(笑)。家庭的な手づくりの味で、550円という安さにも驚くばかり。
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「世界平和記念聖堂(カトリック幟町教会)」にも立ち寄りました。1950年竣工という歴史ある建物で、彫刻を施されたファサードや青銅色の扉など、建築家・村野藤吾によるとても素敵な教会だったのですが、上手く写真が撮れず……画像はこの「ファティマの聖母」のみ(2017年に制作されたレプリカだそう)。
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内部には、よく見ると鳥居や蓮の花といった和のモチーフがさりげなく取り入れられており、シンプルでモダンでありつつ、親しみを感じる空間でした。わたしの好きな、高度成長期の夢やエネルギーを感じる空間でもあり、立ち去りがたい気持ちに。


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滞在中、ホテル近くのお店で広島焼も堪能しました。鉄板で焼きながら頬張るスタイルではなかったのが、やや残念だったのですが……。「マスク入れじゃけん!」と広島弁で書かれた、紙製のマスク入れがサービスでついてくるのがなんだか良かった。マヨネーズには真っ赤なベースボールキャップがあしらわれ、広島カープ仕様になっているところにも、旅情をかきたてられました。

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原爆ドームは崩壊寸前といった姿で、修復工事の真っ最中でした。修学旅行などで10代のときに訪れる人が多いと思うのですが、私は今回が初訪問。リニューアルされた「平和記念資料館」へも立ち寄りましたが、あまりの悲惨さに途中でその場から逃げ出したい気持ちに……。
子どもたちや若者の遺影、焼け焦げたブラウスやお弁当箱といった遺品、遺族からのエピソードをもとに「個々の人生」に焦点を当てるというアプローチとなっており、それぞれが抱いていた未来やささやかな幸せが一瞬にして失われたという“取り返しのつかなさ”をいっそう際立たせていました。

それにしても、人間ってどんなことがあっても、命がある限りは生きていくんだな……とむしろ、その場で亡くなった人たちより、生きのびた人たちのその後に思いを馳せてしまいました。戦後、どんどん豊かに勢いを増していく日本の夏の時代を、どんな気持ちで見つめていたのでしょうか。少女時代の被ばくが原因で40代の若さでこの世を去った女性の、彼女が最も美しかったであろう、20歳頃の写真が最後に展示されていました。

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このほか、原爆投下で焼け残ったという旧日本銀行広島支店の見学などもしたのですが、ただ、街を歩いているだけでも戦争の痕跡を色濃く感じました(前回は若かったこともあり、そのようなことはあまり感じなかったのですが……)。
そして、被曝という大きな悲しみを乗り越えてきた街なんだという視点で見ると、ゴトゴト走る路面電車や、夕暮れの原爆ドーム、水を求めて多くの人が飛び込んだという2つの川……そんなすべてがなんとも切なく、哀愁を帯びて見えました。

『恋する彼女、西へ。』という広島を舞台にした映画が大好きだったので、この風情ある路面電車にはちょっとした思い入れも。ある夏の日に戦時中の広島からタイムスリップしてきた海軍将校と、30代のキャリアウーマンが恋に落ちるというラブストーリーで、過去に戻る決意をした若き将校(原爆投下の未来をすでに知っており、死を覚悟をしている)が敬礼をしながら路面電車でゆっくり遠ざかるなか、止めても無駄と知りつつ、彼女が彼を泣きながら追いかける……という劇的なシーンが思わず脳裏に再現されました。
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商店街を歩いていたら、日本のパン文化の父(!?)ともいえるおなじみ「アンデルセン」の紙屋町店が。そういえば、広島本社でした。パンだけでなく、デリカテッセンやカフェなども併設されており、人魚姫のレリーフが素敵。ここだけで取り扱っている広島の名産品もあり、《季節のジャムと日々のおやつ[cosakuϋ コサクウ]》(Click!)さんのジャムをお土産に。

今回の取材先も、《ブーランジェリー・ドリアン》さんというフードロス削減という視点から注目されているパン屋さんだったのですが(発売中の『天然生活6月号に掲載なので、ぜひご覧ください)、クリームパンで有名な《八角堂》も広島発祥ですし、広島のパン文化ってあまり語られないけど実はすごいのではないでしょうか。

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「福屋」というデパートで見つけた、呉の「メロンパン」という会社がつくっている、ローカルパンもあれこれ買ってきました。この旅で、最もテンションが上がった瞬間だったかもしれません(笑)。
なかでも目を引いたのが、やはり左端の「平和パン」(パッケージにイチゴが描かれており、中身はジャムパンでした)。ラグビーボール型のメロンパンが看板商品だそうなのですが、今回は平和パンと、定番の食パンを。戦前から続く会社だそうで、『この世界の片隅に』で描かれたような時代から、ずっと広島の人たちに愛されてきたパンなのです。

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広島が誇る銘菓、長崎堂さんのバターケーキも、もちろん買いました。ノスタルジックなデザインの掛け紙、志おりなどすべてが完璧で、素朴でやさしい味も昭和でした……。

数年前の長崎・キリシタン弾圧の地めぐりに始まり、最近は公私ともに、いわゆるダーク・ツーリズム(人類の負の遺産をめぐる旅)をする機会が多いわたし(もともと、明るさや楽しさより、死や孤独といったものに惹きつけられるタイプです)。
人間に対しても、その人が抱えている闇を知ることでよりいっそうその人が好きになる、というところがあるのですが、街に対しても同じで、広島がいっそう好きになった旅でした。
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by interlineaire | 2021-05-13 00:56 | Comments(0)
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