京都感傷旅行〜《青の夢 洋菓子店》こぼれ話
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フリーペーパー《Pâtisserie Rêve bleu 青の夢 洋菓子店》に掲載した記事、「青児と夢二をめぐる京都へ 感傷的小旅行」の取材で訪れた京都こぼれ話です。京都へはときどき行きますが、《喫茶ソワレ》でお茶を飲むのはもう何年ぶり?というくらい久しぶりのこと。二代目の元木英輔さんが数年前に亡くなり、現在は三代目となる娘さんが継いでおられました。二代目にインタビューなどさせていただいたり、お世話になっていた関係からつい「お嬢さん」と呼んでしまっていたのですが、もしかしたら失礼だったかも……と後で冷や汗。

創業者はソワレをオープンする以前は、花遊小路で《元木屋》という小間物屋と画廊を経営していたそう。画廊をやっていらしたことから、彫刻家の池野禎春氏(店内を彩るバッカスなどの木彫りを担当)や、染色家の上村六郎氏(青い照明にすることを助言した)などの人脈があったのかもしれませんね。東郷と交流があった創業者については、幼い頃に亡くなったので残念ながらあまり記憶がないそうですが、新しもの好きでダンディーな「かっこいいおじいちゃん」だったそうです。

余談ですが、花遊小路には《よーじや》の本店があり近年は観光客であふれていますが、私が大学生だった頃は街角の古ぼけた小さなお店、といった佇まいで、逆にそこに魅きつけられていました。舞妓さんや芸妓さんが日常的に立ち寄って、普段使いするものを買っているんだろうなあ……という一見さんを寄せ付けないディープな雰囲気があったんですよね。あぶらとり紙は当時から有名でしたが、流行とは無縁の、甘いクラシカルなテイストのポーチや手鏡なんかも売っていた記憶があります。



ちなみに、私はソワレの1階にはあまり座ったことがなく、特に思い出深いのは高瀬川をのぞむ2階窓際のこの席。昭和20年代の日本人の体型に合わせているため、グリーンの座席は小さめで向かい合わせで座るとかなりコンパクトな空間になってしまうのですが、逆にそこが親密なおしゃべりに向いていた気がします。かつてここで一緒に過ごした人たちとの時間が蘇ってきて、懐かしさに胸が締め付けられました。
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こちらも大学時代によく通った思い出の場所、京都府立図書館。当時はまさかここが竹久夢二ゆかりの地とはつゆ知らず……2001年にリニューアルされて、趣きある外観は保存しつつ、内部はすっかり近代的な空間となっています。
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取材時に小さな展示スペースにも案内してもらったのですが、そちらに夢二が個展をした際の写真が飾ってありました。現在もほぼそのまま残っている階段のところで撮った記念写真が!(下段の右から2人目が夢二。「FAREWELL(告別展)」という垂れ幕がかけられています)。当時の家具などもわずかに残っていたものが展示されており、背もたれがハート型の椅子がかわいかったです。家具のデザインも建物と同じ、武田五一が手がけていたそうですが、この椅子が五一デザインかどうかは明確な資料がなく判然としないそう。展示スペースは普段は閉まっていますが、毎月第三水曜に開催の見学会で案内していただけます。

さらに、取材ではないですが、帰り際に立ち寄った鞍馬口の《花の木》。高倉健さんを筆頭に、若き日の北大路欣也さんなど往年の映画スタアたちが集ったことでも知られる喫茶店ということで初めて行ってみました。近所のおじいちゃんおばあちゃんが店主夫妻と雑談していたり、近隣の大学生たちがミーティングをしていたりと気さくなムードの店だったのですが、写真に撮ってみるとなんともフォトジェニックで驚きました。
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かつてヨーロッパで絵画の修復の仕事をしていたという創業者が手がけたという、ログハウス風の内装、花柄の壁紙、真鍮のテーブル……。そして、そんなひとつひとつに、かつてここで過ごした人たちの人生の時間が刻まれているからかもしれません。貫入の入った長年使い続けているカップでコーヒーを飲むのと、新品のカップで飲むとのでは、同じ豆で同じように淹れたコーヒーでも古い器のほうがなぜかおいしく感じる……という話を聞いたことがありますが、空間にもそういう効果があるのかも?
古時計の横に、くつろいでいる若き日の健さんの写真が飾ってありました。お酒を飲まない人だったこともあり、おいしいコーヒーを飲みながら仲間たちと語らうのが好きだったんでしょうね。下はカウンター内に飾ってある、健さんが店主に贈ったというフランスの俳優、ジャン・ギャバンのポスター。入り口付近には健さん関連の雑誌、書籍なども揃っていて、ちょっとした資料室の趣きも。
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私が京都のジャズバー《blue note》でアルバイトしていた頃にも、昭和の映画スタアたちの伝説はママの故・宍堂初子さんからたまにうかがっていたなあ、と思い出しました。常連だったのは太地喜和子さんなど酒呑み組(笑)の方々で、「ニコラシカ」というカクテルで、誰がいちばん先に酔いつぶれるかという飲み比べをよくしていたのだそう。
私も一度飲ませてもらったことがありましたが、リキュールグラスの縁ぎりぎりまでブランデーを注ぎ、そのうえにレモンの薄切りと砂糖をのせるというもの。しばらく待ってブランデーがレモンを通して砂糖に染みてきたところで、おもむろにレモンと砂糖を口に放り込み、それを一瞬で吐き出し、レモンの果汁と砂糖が口に残った状態でリキュールグラスのブランデーを一気飲み(!)するという衝撃的なものでした。

初めて飲んだときにはこの世にこんなおいしいものがあるのかと感動したのですが(笑)、いま思えばなんとも刹那的で贅沢な、古き良き時代の遊び人たちを象徴する飲み物だったのかな……という気がします。高価なブランデー(ヘネシーとか)を一気飲み、しかもそれを立て続けに10杯とかどんどん飲んでしまうんですものね。
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帰り際に四条・南座前の《井澤屋》で買ったささやかなお土産。左は大正時代からあるという、井澤屋オリジナルの大判の紙ハンカチ。歌舞伎役者へのお部屋見舞いとしても使われているそうで、紳士への京都みやげに喜ばれそうなデザインです。左はパピアプードルという、1枚ずつメモ用紙のように切り取ってお化粧直しに使う紙おしろい。これ、《blue note》のママが愛用していたもので、懐かしくてつい買ってしまいました。いつもバーカウンターの定位置に置いてあり、スタッフの女の子は皆、「好きに使って」と言われていたのです。こちらは英国製ですが、ママもおそらく《井澤屋》で買っていたんじゃないかな。いつのまにかデザインが変わっていたのがやや残念でしたが、マリー・アントワネットを思わせる貴婦人の絵はそのまま。ちなみに、昔はこういうデザインでした。
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今回の収穫は京都府立図書館の司書さんから、夢二にまつわるとてもおもしろい資料をご紹介いただいたこと。おもに京都時代のことが中心に据えられた資料で、帰りの電車内で夢中で読んでしまいました。「夢二の日記を読むと、生涯にわたって心から笑ったことはないのではないかと思えるほど、毎日が憂鬱な情調と生の不安に支配されている……」というような一節から、私自身の憂鬱な京都青春時代の気分(!?)とつい重ね合わせて、タイトル通りどうも感傷的になってしまいましたが。なお、府立図書館には閉架書庫の資料を見せていただきに再訪する予定があるので、また機会があれば京都と夢二ついてどこかで書きたいなあ、と思っています。


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by interlineaire | 2018-05-29 22:24 | Comments(0)
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