『戀愛譚』出版記念展、ご来場ありがとうございました。
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4月末に大阪・北浜の《アトリエ箱庭》にて3日間だけ開催した、『戀愛譚 東郷青児文筆選集』発売記念展、ぶじ終了しました。初日の28が東郷の誕生日、翌日が昭和の日というこれ以上ふさわしい日はないというタイミングで、たくさんの方にご来場いただきありがとうございました。箱庭オーナー・幸田和子さんのコレクションを中心に、一部、私が所有している古書や包装紙も並べました。2009年に、『東郷青児 蒼の詩 永遠の乙女たち』をリリースした際にも同様の展示をしましたが、さらにコレクションも充実し、私たちの視点が当時とは変化していることもあり、また違った趣向になったかなと思います。
谷崎潤一郎の『卍(まんじ)』などふたりとも所有している本は、カバーをつけた状態とはずした状態を両方、見せるかたちで展示したりも。

ガラスケースの中は詩人の堀口大學コーナー。シンプルかつ、瀟洒で幻想的な装釘に会期中、眺めてはうっとりしていました。中央の詩集、『あまい囁き』は2009年以降に新たに増えた箱庭コレクションです(収録作には愛娘のすみれ子さんに捧げた詩もあり、堀口ファンとしてはたまらないものが……)。




メインの展示スペースはこんな感じでした。手にとって見ていただける資料もたくさん用意していたので、静かな水辺で自分の部屋のようにゆっくり過ごしていただければ……という思いがありましたが、10人も入れば満員になる小さな空間のため、お声がけできないまま帰られてしまった方がいらっしゃったのがやや心残りです。
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ピンク地に鶴が描かれたテーブルクロスは、昔、自由が丘モンブランで記念品として配っていたらしき風呂敷だそう。わが家で使っているコーヒーテーブルを持ち込んで、洋菓子店の紙袋、包装紙、コンパクトやミラーなどを展示しました。
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華やかな雑誌や包装紙に目が奪われがちなところ、地味に推していたのがこちら。扉野良人氏が版元の創元社宛てに送ってくださった、与謝野晶子の夫、鉄幹が主宰していた雑誌『明星』に載っていたという東郷作の「未来派詩」(1922年)。20代の若き東郷がパリから寄稿した作品で、新しきもの、前衛に思いっきり傾倒していた時期。10〜20代の頃って、優しくわかりやすいものより、難解でとんがったものに魅かれがちですよね。そんな青い頃を思い出させてくれる一篇です。活字の組み方までもが斬新だったので、ぜひ皆さんにも見ていただこうと、箱庭さんが和紙に出力して額装してくださいました。

「東郷の絵は、稲垣足穂がその人工的なタッチに瞠目し、その後、昭森社から未刊に終わった『一千一秒物語』の装幀を東郷に指名したことを思い出します」(扉野さんより)とのことで、東郷と稲垣足穂のタッグ見たかったなあ……と嘆息。きっとこのうえなくモダンで硬質な美しさを湛えた書物になったことでしょう。『戀愛譚』に収録の「マネキンに惚れる」や「義手義足空気人形」といったエッセイを読むと、東郷の人工美へのあこがれがよく理解できると思います。

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さらに、『戀愛譚』の世界観をイメージした焼菓子を、本町のフレンチカフェ、《シェ・ドゥーヴル (chef d’oeuvre)》の小谷廣代さんと企画しました。小谷さんがプロならではのアイデアをあれこれ出してくださり、追加分も含めてあっというまに完売したのが嬉しかった! 左が東郷のお誕生日を記念した、《青児と星のメレンゲ》。Seijiの“S”と星をかたどったメレンゲに、妖精の薄衣を彩る宝石のような銀色のアラザンがちりばめられています。マカロンっぽい可愛い青ではなく、大人っぽいシックな青にして欲しいとリクエストしていたのでイメージぴったり。

右は「カルバドスの唇」というエッセイにちなんだ、カルバドス(りんごの蒸留酒)を染み込ませたミニパウンドケーキ。これは私がいま個人的に、ブランデーケーキにはまっていることから実現。高価なカルバドスをたっぷりと使うので価格がやや高めになってしまったのですが、なかなか他にない贅沢な味わいとなりました。ミッドナイトブルーの薄葉紙で包み、以前箱庭さんが製本で使われていた「鬼引」という特別なひもで結んでいます。水引きを思わせる若干和のイメージが漂う結び方にしてくださり、東洋と西洋がまじりあう東郷の世界観にふさわしいラッピングになったかな?
プライスカードにはりんごを手にもったイヴが蛇とたわむれている絵をあしらい、大人にしかわからない罪と酩酊の味(笑)をミニサイズでひとりじめしていただこうという趣向に。

さらに、右下の紙袋は2006年に惜しまれつつ閉店した《渋谷フランセ》のもの。来場者にさしあげるフリーペーパーの表紙に渋谷フランセのものを使わせて頂きたいと思っていたので、許可取りでコンタクトしたところ、三田貞朗社長のご厚意でお店で使われていたミニ紙袋をお譲りいただけることになったのでした。会期中、『戀愛譚』をご購入くださった方にプレゼントしていたのですが、こちらも関係者分をのぞいてすべてなくなりました。思い思いのおしゃれをした女性たちが東郷の絵がついた紙袋を腕に掛け、東郷画が表紙の雑誌に夢中で見入っている光景に、画家本人もきっと喜んでいたことでしょう(笑)。
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こちらがフリーペーパー《Pâtisserie Rêve bleu 青の夢 洋菓子店》。昭和の頃、どこかの街にあったような架空のパティスリーに置いてある商品案内をイメージしたデザインとなっています。内容は制作チームによる『戀愛譚』の作品レビューを中心に、「青児と夢二をめぐる京都へ 感傷的小旅行」、「秋田で出会った、青いワンピースの乙女」(秋田菓子宗家かおる堂と東郷の関わり)、「箱庭コレクション」(2009年以降に箱庭さんが入手した東郷装釘本のご紹介)など、東郷にまつわるよもやま話もぎゅうぎゅうに詰め込みました。
右にちらっと映っているモノクロのフライヤーは、最終日に打ち上げがてらクローズドで企画した東郷出演の映画『誘惑』(中平康監督)を鑑賞する会のお誘い状(著作権の問題があるので、基本的に面識のある友人知人にのみお渡ししていました)。

今回の展示で最も印象的だったのは、14年前に制作した「gris-gris」というフリーペーパー(2号目で青児装釘本特集を組みました)を持参して見せてくださったお客様がいらしたこと。かなり読み込んでくださったらしく、端っこがよれっとなっていたのがまた嬉しかった。会期中、何人かそんな私たちのインディーズ時代(笑)を知る方が来てくださり、衝撃を受けました。このフリーペーパーがきっかけとなって、本のお仕事ができるようになり、現在につながっている原点でもあり……それをずっと大切に持ってくださっている人がいたこと、それが今後の指標にもなったかな?

というのは、やっぱりリアルな空間だったり、フリーペーパーなどの形あるものをつくるって、あたりまえですが膨大な手間と時間がかかるんですね。そうなると、ネット時代においてわざわざ場を設けて人に来ていただくことの意味だったり、あえてウェブではなく紙で残していくことの意味、などについて深く考えざるをえず、準備段階でかなりネガティブに思い悩んでしまったことも……(これは、ふだん編集者&ライターとして、常に向き合っているテーマでもあるのですが)。ですが、ここにきてやっと自分のなかで納得できたような気がしています。

そんなわけで、昨年からの東郷狂想曲(!?)もこれでようやく一段落。今後も彼との不思議な縁は続いていくことでしょうが、いったんは短いお別れです。東郷が縁で出会った方々すべてに感謝を捧げつつ、またいつかの再会を待ちたいと思います。

*フリーペーパー《Pâtisserie Rêve bleu 青の夢 洋菓子店》は現在、京都の恵文社一乗寺店、大阪の
Calo Bookshop & Cafeで『戀愛譚』をお買い上げ頂いた方への特典としてさしあげています。よろしくお願い致します。

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by interlineaire | 2018-05-12 21:48 | Comments(0)
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