これまでに手がけたのはヴィジュアルブック的なものが多く、こういう文芸書の編集は今回が初めてだったのですが、版元の編集者Sさんを筆頭に関係者の皆さんの助けにより、どうにかこうにか、納得のいくクオリティに仕上がりほっとしています。実は、途中で企画そのものが頓挫したりといろいろ激動(!?)な経緯があったのですが、紆余曲折を経たぶんだけひときわ愛着のある一冊となりました。自分としても少しだけ次のステージに進めたかな?と思っています。 基本的にテキストのみの本ですが、おもに『手袋』『カルバドスの唇』などの著作から、作品に応じた挿し絵もできるだけ掲載するようにしました。なかには「ええっ!?」と吃驚するほどエロティックかつユーモラスな絵もあるので、ぜひ合わせて楽しんでくださいね。 なお、本書で個人的に気に入っているのは「金魚」というジャパンホラーテイストのエッセイ。雨、墓場、提灯、そして息もたえだえの金魚……という、まるでショートムービーのように儚く美しい、少しだけ昔の日本の情景が浮かんでくる一篇です。亡くなった少女を回想するシーンで、伏せた長いまつ毛をゆっくりとあげて「先生」である東郷を見つめるときの、「まるで黒い蝶々が静かに羽根を開く時のような感じだった」という一節にはしびれました。 ほか、政治的な内容を含むためやや迷ったものの、「あの頃、この頃」という青鞜社の伊藤野枝&アナーキストの大杉栄カップルについて書かれたエッセイはやはりどうしても入れたいと収録しました。伊藤野枝については昨年、『村に火をつけ、白痴になれ』という伝記が話題になりましたが(この本、むちゃくちゃおもしろくて一気読みしてしまいました)、実際に彼らと交遊があった東郷の言説は必読です。 また、東郷青児といえば恋人をとっかえひっかえする昭和のドンファンと思っている人も多いかと思うのですが、決してただの女好きではなかったということがこのエッセイを読めばわかっていただけるかな、という気持ちもありました。このエッセイは編者である私から、読者の皆さんへの裏メッセージでもあります(笑)。 下は美術館からエスカレーターあがってすぐの「CAFFE CIAO PRESSO」で提供中の「超現実派の散歩」ラテアート。(初期のシュルレアリズム風代表作がモチーフとなってます)。カフェとの連動企画は大阪展だけなのでこれは貴重!横は衝撃的だった「望郷」フュギュア。と、お客としても楽しみまくっている私です(笑)。 ちなみに、展覧会会場では私自身の東郷装丁の古書コレクションも、2冊だけですが展示していただいているのでよろしければご覧になってみてくださいね。(北條誠『明日の愛情』と、サトウハチローの『見たり聞いたりためしたり』)。 昨年秋には『東京人』10月号で「昭和のやさしい面影に、ふたたび出会う」という東郷についての8ページの記事も書かせていただきました(Click!)。ほか、東武百貨店でのプチ東郷青児展(画商さんがされている即売会的なもの)にギャラリートークで呼んでいただくなど(人前で話すのが下手すぎて恥ずかしいので、ネットではお知らせしていませんでしたが)、いろいろと初めての経験も。 また、昭和40年代頃までは大町店のすぐそばで「PontD'or」(ポンドール=フランス語で「金の架け橋」の意味)という、当時としてはかなりモダンな洋菓子店をやっていらして、こちらのロゴマークや包装紙も東郷が手がけていたそう。その原画など資料も残っているそうなのでぜひいずれ拝見させてくださいとお願いしました。 ほか、こちらは少し前に見つけた、コバルト社刊の『東郷青児スタイルブック』(右は某所からお借りしている同じくコバルト社の『恋愛散歩』)。家庭でお母さんが洋裁をするのがあたりまえだった時代、手づくりブラウスやワンピースのデザインのヒントにしてもらおうと、東郷が描いた洒落たファッションイラストが満載の冊子です。このほかにも、新たに入手したものがいくつかあるので、いろいろ落ち着いたら、出版記念にどこかで展示できたらなあと考え中です。 昨年秋から『戀愛譚』にかかりきりでお正月も返上だったし、そろそろゆっくりしたい……という怠け心と戦いつつ(!?)春まであとすこし、頑張りますのでどうぞよろしくお願い致します。
by interlineaire
| 2018-03-04 00:52
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